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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第17便 祐子さんの家族<1> 千手観音

5/29/2013

 

 震災から間もなく2年を迎える日曜日。私は女川町の塚浜(つかはま)へ出かけました。女川港から海岸伝いに南東約15キロ先にある浜です。浜から1キロほど先には東北電力の女川原子力発電所があります。その日、祐子さんのご主人も一緒でした。
 
 浜辺を一緒に歩きました。冬枯れの草むらに洗面器やバケツが散らばっています。扇風機の羽根がありました。洗濯機のふたもありました。ストーブの灯油タンクもありました。「しらすふりかけ」の文字が残る錆びた空き缶も──。2年前、そこには扇風機が回っていた夜があり、洗濯機が音を立てていた朝があり、ストーブで暖まった人がいたことを思います。
 
 奥の山ぎわまで歩きました。大木が立っていました。立派な枝を千手観音のように広げています。女川町が天然記念物に指定したタブノキです。樹齢300年以上になります。これから町は山を切り開き、今回の規模の津波があっても浸水しない高台に宅地を造成します。タブノキが造成後もそこに残るかどうか、まだわかりません。
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​ 帰り道、「これは鹿の足跡ですよ」と祐子さんのご主人から教わりました。地面に目を凝らすと、なるほど、ひづめの痕跡らしきものが。左上と右下に写し込んでみましたが、おわかりいただけますでしょうか。
 
 牡鹿半島をめぐる道中、ニホンジカをよく見かけます。絵本で見たバンビのような子鹿もいます。バンビのお父さんのような角を生やした鹿もいます。夜、彼らは車のライトに向かってくるので、気をつけて運転しなければなりません。「うちにも鹿が来るんです」とご主人。自宅は津波を免れた女川町中心街の一画にあります。鹿は自宅裏の山から出てきます。
 最近、こんなことがありました。帰宅したご主人が「おじいさん、生け垣、いづのまに刈ったの」とたずねると、おじいさんは苦笑して「鹿に食わいだんだ(食われたんだ)」。家庭菜園はもっと大変です。「ネギも包丁で刈り取ったように食べてしまうの」とおばあさん。
 
 おじいさん、おばあさんと書かせていただいていたのは、祐子さんのご両親のことです。ご主人は、ご両親と共に、妻の帰りを待っています。
 祐子さんは、これまでにご紹介した健太さんや美智子さんと一緒に七十七銀行女川支店で働き、津波で流されました。47歳の時です。ご主人は、美智子さんが塚浜で見つかったと聞くや、塚浜に急ぎました──。タブノキの下、妻を捜し歩いていた夫の姿を思います。

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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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