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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第5便 花屋さん一家と<1> 花届ける日

12/11/2012

 

  牡鹿半島を海沿いに車で行くと、いくつもの入り江を通ります。あの日、半島一帯は1メートルほど地盤沈下しました。岸壁も沈み、波が打ち寄せています。陸側には更地が広がっています。その所々に置かれた花瓶が、その地に人々が暮らしていたことを静かに語り継いでいます。花瓶に菊や百合が供えられた日は、その日が月命日の11日であることを思い起こします。1カ所だけ真新しい花束を目にすることもあります。今日はお誕生日かしらと思いめぐらせます。
 
 今年9月26日。私も花を届けました。これまでお話ししてきました、銀行員の健太さんが、海から帰ってきた日です。銀行支店の建物は、この春、撤去され、今は更地になっています。健太さんの両親は、ほかの家族の方々と、そこに花壇を作りました。姉が好きだった赤色の花、妻が好きなピンク色の花の鉢植えを、それぞれ置きました。小さな太陽光のライトも備え付けました。待っているよ、と。健太さんを含む行員4人は遺体で見つかりましたが、8人がまだ帰ってきてません。

​ 26日、私は支店があった女川町鷲神浜(わしのかみはま)をめざしました。あの日まで町の中心街でした。あの日、浜に暮らしていた822世帯のうち、416世帯が全壊し、50世帯が大規模半壊、77世帯が半壊となりました。浜へ向かう下り坂の途中で、「コンテナ村」の赤文字が点滅する電光掲示板が目に入ります。その脇の建設会社の跡地に、海上輸送用コンテナ10棟を利用した小さな商店街があります。商店街入り口の花屋へ立ち寄りました。
 
 長い髪を三つ編みにした千秋さんが、長男のおヨメさんと一緒に迎えてくれます。
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 この日も、千秋さんは私のこんな長い注文を笑顔で聞いてくれました。
 「25歳の行員さんに届けたいのです。高校球児でした。高校のスクールカラーの紫色が好きでした。今日は彼が帰ってきた日なのです。彼の両親に少しでも元気になっていただけるような花かごをお願いできますか」
 そうして作っていただいた花かごが、こちらの写真です。
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 「あそこは海風があたるから、ラッピングは外さないで、そのままにしてね」
 と言ってくださる千秋さんの心配りに、私も元気の素をいただきます。
 
 
 今年に入り、ご葬儀に伺う機会がふえました。千秋さんのお店へ通います。こう注文したこともあります。
 「まだ帰って来られないお母さんなのです。でも、先日、海のがれきの中から、お母さんのお財布が見つかったんです。その晩はお母さんの夢を見たんですとお嬢さんがうれしそうに話してくれました。そのお財布が紫色なのです。お嬢さんが少しでも笑顔になれるような、そんな紫色の花束を」
 「そうなの」「それはよかった」
 千秋さんは微笑んだ目を潤ませながら聞いてくれます。 「車で持って行くのなら、助手席に乗せてね」と気遣いながら作ってくださったのが、こちらの花かごです。
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​ 千秋さんも、あの日から、お父さんの帰りを待っています。

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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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