暑い日本から涼しいバンクーバーへ帰国してホッとしたのも束の間、いよいよここを離れる時がやってきました。 引っ越しや友達とのお別れ会を終え、ガランとした部屋で余韻に浸る暇もなくアメリカに向けて出発です。 もともと一年間の予定だったため、家具もほとんどは借り物。 その他の生活道具も大体は安く譲ってもらったり拾ってきたりしたものなので、出る時も人に譲るか外に置いて おけば、翌日には誰かが持っていってしまいます。 当初はこの習慣にも戸惑ったものの、人の出入りの多い都市ならではのこのリサイクルシステムに 今ではすっかり慣れました。 自分達だけで荷物を積み込みトラックを運転してアメリカまで行こう! というダイナミックなことも考えましたが、直前に膝を怪我してしまったので、安心できる日本の業者に お願いしました。 しかしこれが大正解でした。 時間通りに来てくれて、テキパキとすべてを丁寧に梱包、無駄のないスムーズな運び込み! さらには面倒な書類の記入や粗大ごみの処分もしてくれ、アメリカでの配達の際には全ての空き箱を 回収にまで来てくれます。 その気配り、丁寧さ。 日本では当たり前のこれらのサービスも、全てが大雑把なこっちでは賞賛に値します。 こういう気質は日本人の本当にいいところで、誇らしさを覚えました。 バンクーバーでの2年半の生活。 しかし思い返してみると、本当にあっという間でした。 着いたばかりの頃は時差ぼけで眠れず、不安と期待の入り混じった気持ちでホテルの窓から 深夜の通りをよく眺めたものでした。 外国特有の薄暗いオレンジ色の街灯の中で歩いているのは見慣れぬ顔立ちの人々。 小雨の通りは寒々としていて、時折車が赤信号で右折していきます。 家族も友達もいない見ず知らずの土地。 初めての朝食のために外に出てみたものの、英語で注文する事への緊張でコーヒーショップにすら入れず、 30分程さまよって中国系のおばちゃんがやってる誰もいないベーグル屋で何とか落ち着いたのも 今となっては笑い話です。 最初不安の象徴のように見えたその通りも、実は結構な大通りで、英語学校で知り合った友達が そのコーヒーショップでアルバイトしていることを知ったのも後になってからでした。 英語はどれだけ上達したのかは分かりませんが、分からない事を曖昧にせず、 堂々と「分からないから教えて」と言えるようになっただけでも進歩したように思います。 とにかくいろいろなことがありましたが、ひとつ気付いた事があります。 それは何処に住もうが、一番大切なのは結局は人との繋がりだということ。 僕らがこんなにバンクーバーを楽しめたのも、たくさんの人と知り合い、助けてもらったからに他なりません。 広大で豊かな自然に恵まれたカナダ。 多民族が集まり、様々な文化を形成しているバンクーバー。 狭い日本では想像もつかない国土と多文化に身を置くだけで、自分の可能性がぐんぐんと拡がるんじゃないか という気が以前はしていました。 確かにいろいろなものを見たという点で世界が広がったのは事実ですが、しかし所詮一人の 人間の行動範囲はどこに居たってだいたい同じです。 カナダにいるからと言ってカナダ中を知り尽くせるわけでは当然なく、大体は家や学校の周りの数キロ圏内です。 だとすればその中で何が自分を成長させるのか。 それはやはり人との出会いだと思います。 海外にいると、孤独になるのはとても簡単です。言葉もわからないので知らんぷりしていれば 誰にも話しかけられません。 知り合いを作らなければメールも電話もチンともなりません。 ある意味で “楽” です。 数日の観光ならともかく、ただそうやっているだけで将来が大きく開けると思うのは大きな間違いでした。 ちょっと頑張って話しかけてみる。集まりに顔を出してみる。思い切ってメールをしてみる。 日本にいればあまりしなくてもいいような努力ですが、その積み重ねが、 この国での自分の日常にダイレクトに繋がっていたのです。 どんなに素晴らしい環境にいても、孤独ではその魅力も半減する。 逆にどこに住んでても、人との繋がりが拡がれば、そこは自分にとって何よりも居心地のいい場所になる。 自分の可能性を広げてくれるのは、「場所」ではなく「人」。 総面積1000万平方キロメートルの国に来て気付いた、自分の周囲の大切さ。 ここに来なければ分からなかったような気がします。 とにかく。 長い充電期間は終わりました。 次はアメリカで、自己最大の作品プロジェクトに取り掛かります! どんな出来事が待っているかは分かりませんが、おそらく楽しいに違いない。 すべては自分次第。 それでは、いってきます! --------------- バンクーバー日記 -了- コメントの受け付けは終了しました。
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Author池田 学(いけだ まなぶ) Archives
8月 2013
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