25歳の銀行員健太さんは、2人きょうだいの兄でした。4歳下の妹がいます。身長は171センチ。肩幅がありました。背格好も、お顔も、お父さんそっくり。 「息子はお父さんの分身なんです」とお母さんが笑います。 お父さんによると、健太さんの性格はお母さんそのものだそうです。良いものは良い、悪いものは悪い、とはっきり言う子でした。 健太さんは、お父さんの母校でもある宮城県立古川高校へ入学し、野球部に入りました。正捕手を務め、高校3年の夏の県大会ではベスト8入りを果たします。高校3年間の公式戦でパスボールが一つもなかった捕手でした。 昨年夏はまだ一心不乱に捜していました。今年夏、お父さんは初めて、息子の高校時代の野球帽を手にとりました。帽子の内側に手書きの字が残っていました。 ONE FOR ALL その言葉を記した横断幕を作り、この夏、母校の野球部へ贈ることにしました。 贈呈式の日、健太さんの同級生も付き添いました。野球部の仲間でした。足腰を傷め、野球をあきらめかけた2年生の時、健太さんから「来たらいいべや」と言われたそうです。強く明るい口調でした。マネジャーとして復帰し、3年生の夏を一緒に過ごしました。昨年は、野球部の仲間たちも、仕事の合間を縫い、健太さんを捜して歩きました。 母校の校庭で横断幕を手にしたお父さんと元マネジャーを、現役の部員たちは整列して迎えました。息子に重なって見えたでしょう。どれほどの思いがこみあげていたでしょう。ですが、お父さんは取り乱すことなく、県大会を控えた球児たちへ力強い声で語りかけました。 「高校野球は人生の通過点です。大学に入っても、社会人になっても、野球は続けられます。これが終わりではありません。ぜひ、あきらめず、次につなげるプレーをしてほしい」 高校生活最後の夏に挑む3年生を思いやる、お父さんらしい言葉でした。 コメントの受け付けは終了しました。
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Author小野智美(おの さとみ) Archives
3月 2019
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