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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第12便 美智子さん姉妹<4> おねえさん

3/10/2013

 

 あのときの悲痛な叫び声は、いまも私の耳元に残っています。水平線へ向かって思いをこめた、それは礼子さんの声でした。
 「おねえさあぁぁぁん」
 
 昨年5月の大型連休前でした。風はまだ冷たく、コートを羽織るほどの寒さでした。銀行員の美智子さんが最後までとどまった勤務先、女川支店の建物の解体がまもなく始まるため、礼子さんと恵子さん姉妹はほかの行員の家族たちと2階建て支店の屋上へ上っていきました。
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 地上から高さ約10メートル。あの日、美智子さんは12人の行員たちと共にそこへ避難し、迫り来る津波から逃れるため、屋上への出入り口を囲む塔屋の上にのぼります。そこは高さ約13メートル。美智子さんがのぼった塔屋の上へ、礼子さんと恵子さんも立ちました。ほかの家族も一緒です。
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 そして、地上から見上げていた私のもとへ、礼子さんの悲しい叫びが届きました。
 
 女川支店があったのは女川港そばの鷲神浜(わしのかみはま)でした。震災前はビルが林立する中心街でした。その光景を収めた写真は、編著『女川一中生の句 あの日から』でも紹介していますが、撮影者の許可をいただき、ここにも掲載します。下は、昨年1月の写真です。
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 撮影:佐藤敏郎氏
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2012年1月

 標高約50メートルの熊野神社の境内から撮ったものです。浜一帯は標高約20メートルまで津波をかぶりました。被災した建物の解体撤去が進み、昨年1月は海側に観光物産施設のビル2棟、その背後に女川支店と、津波で横倒しになったビルが残るだけとなりました。4カ月後、観光物産施設も撤去され、支店の解体工事が始まりました。
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 港周辺には今も倒れたビル3棟が残っています。町は当面、3棟を残すことにしましたが、これを保存するかどうか、まだ決めていません。

 被災した建物をめぐり、各地で議論が続いています。解体撤去せずに「震災遺構」として後世に残したい。そう望む人々がいます。世界遺産となった広島市の原爆ドームにも重ね合わせ、大津波の猛威を将来へ伝える役割を期待するのです。一方、反対する人々もいます。「見るのはつらい」「思い出して苦しい」。そのような声をしばしば聞きます。昨年11月に女川町の中学生たちが町の人々にアンケートをした時も、反対意見が多数を占めました。

 女川支店は、礼子さんと恵子さんにとって、どう映っていたのでしょう。建物の撤去後、2人の妹は跡地を訪れました。
 「これはあの窓ガラスかな」
 「これ、あそこの壁だよね」
 跡地に散らばっていた建物のかけらを拾い集め、大事に抱えて帰りました。 

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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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