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*本連載は、長谷部恭男『憲法学の虫眼鏡』として書籍になりました(2019年11月)。ここをクリックして編集する.

その3 法律の誠実な執行

3/10/2017

 
日本国憲法73条1号は、内閣の職務として「法律を誠実に執行し、国務を総理すること」を挙げている。「国務を総理すること」が何を意味するかについて、近年では、それがいわゆる「統治」ないし「執政」を含むか否かについて論争がある。
 ここで取り上げるのは、およそ論争が起こりそうもない「法律を誠実に執行し」の方である。行政権をつかさどる内閣が、法律を誠実に執行すべきことは、疑う余地のない明白なことのように思われる。しかし、そうであろうか。
 教科書や注釈書の類で議論されているのは、内閣が違憲だと考える法律の執行を拒否できるかである。日本国憲法は、議院内閣制の仕組みを採用しており、法律として可決・成立する法案の大部分は、内閣提出法案(いわゆる「閣法」)である。また、議員提出の法案であっても、少なくとも衆議院の多数派を支配しているはずの政権・与党が違憲だと考える法案の成立を阻止することは、容易である。現実には、なかなか起こりそうもない設定ではあるが(政権交代が起こったときであろうか)、学説の多くは、内閣はたとえ違憲だと考える法律であっても、その法律の執行を拒否し得ないとする。
 とすると、内閣は現に存在する(妥当している)法律は、すべて100パーセント執行する義務を負うのであろうか。少し考えてみれば分かるように、そんなことは不可能である。グリコ・森永事件を引き合いに出すまでもなく、明々白々たる犯罪であっても、その犯人を必ず検挙できるわけではない。また、犯罪を実行した容疑で逮捕されたとしても、必ず起訴されるわけでもない。さらに、軽犯罪法で明確に犯罪とされている行為であっても、日常的に放置されている行為も少なくない。
 刑事法の領域でさらに話を進めると、内閣には恩赦を与える権限も認められている(憲法73条7号)。裁判による刑の言い渡しの効果を変更(減軽)し、特定の罪について公訴権を消滅させることができる。この罰条については、執行しませんと明示的に宣言することさえできるわけである。
 となると、内閣を頂点とする行政は、違憲だとは考えない法律(とその適用結果である判決)であっても、行政独自の判断で、100パーセントの執行はしないことが、憲法上も許容されていることになりそうである。法の支配や権力分立原理は、一体どうなってしまうのだろうか。
 一つの答え方は、利用可能な人的・物的資源の範囲内で可能な限り「誠実に法律を執行」することが求められているのであって、それ以上のおよそ実現不可能なことは求められていない。したがって、たとえ行政が法律の要求を100パーセント実現し得ないとしても、そこに故意・過失があるとは言えず、少なくとも国家賠償責任を問われることはない、というものであろう。また、恩赦は憲法自体が明示的に認める例外であり、例外にとどまり続けている限りは、さほど気にするにも及ばない(あなただって、そんなに気にしていなかったでしょう)。起訴便宜主義も、刑事訴訟法が明文で認めている話である(248条)。

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    Author

    長谷部恭男
    ​(はせべやすお)
    憲法学者。1956年、広島に生まれる。1979年、東京大学法学部卒業。東京大学教授をへて、2014年より早稲田大学法学学術院教授。

    *主要著書 
    『権力への懐疑──憲法学のメタ理論』日本評論社、1991年
    『テレビの憲法理論──多メディア・多チャンネル時代の放送法制』弘文堂、1992
    年
    『憲法学のフロンティア』岩波書店、1999
    年
    『比較不能な価値の迷路──リベラル・デモクラシーの憲法理論』東京大学出版会、2000
    年
    『憲法と平和を問いなおす』ちくま新書、2004
    年
    『憲法とは何か』岩波新書、2006
    年
    『Interactive 憲法』有斐閣、2006
    年
    『憲法の理性』東京大学出版会、2006
    年
    『憲法 第4版』新世社、2008
    年
    『続・Interactive憲法』有斐閣、2011年
    『法とは何か――法思想史入門』河出書房新社、2011年/増補新版・2015年
    『憲法の円環』岩波書店、2013年
    共著編著多数

    羽鳥書店
    『憲法の境界』2009年
    『憲法入門』2010年
    『憲法のimagination』2010年

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