羽鳥書店 Web連載&記事
  • HOME
    • ハトリショテンだより >
      • 近刊新刊 案内
      • 図書目録
    • 人文学の遠めがね
    • 憲法学の虫眼鏡
    • 女川だより
    • 石巻だより
    • バンクーバー日記
  • 李公麟「五馬図」
  • ABOUT
  • OFFICIAL SITE
  • HOME
    • ハトリショテンだより >
      • 近刊新刊 案内
      • 図書目録
    • 人文学の遠めがね
    • 憲法学の虫眼鏡
    • 女川だより
    • 石巻だより
    • バンクーバー日記
  • 李公麟「五馬図」
  • ABOUT
  • OFFICIAL SITE
画像
​​バンクーバー日記は2013年8月に62便にて終了いたしました。ご愛読いただきありがとうございました。
アメリカ・ウィスコンシンへと場所を移し、「マディソン日記」を連載中です。

第8便 ニューヨーク後編

3/25/2011

 
ニューヨークはすごい!
 
噂には聞いていたけど、百聞は一見に如かずとはこの事!
ゴミ、騒音、ビル、人、文字、色、におい、落書き、車、全てがごちゃごちゃで刺激的!
これまでのバンクーバーの生活がウソみたい!
同じ都市でも、東京とは人間らしさというか人間臭さというか、そういうものにおいては
比べ物にならないくらい全てが人間丸出しで、見てて飽きない!
 
人の行き交う大通りで運転席のドアを開けて放尿してるおっさん!
タクシーに乗ったはいいがドアの閉め方が分からずオロオロしてる観光客に「頭を使え!」とまくしたててる運転手!
これでもかというほど店内を埋め尽くしている新作のスニーカー!
路上に散らばるゴミ!
壁一面のアート!
 
他の街ならNGでもここならOKという街の雰囲気に圧倒されて、都会が嫌いな僕らも気づけばニューヨークの虜に。
人間って面白いなぁ!と初めて思った街でした。
画像

​さて僕らが滞在したのはある日本人の方のお宅。
この街に30年以上住んでいて、大きな部屋にはたくさんのアートコレクションが。
ご本人もアートに携わる仕事をなさっていて、とにかくパワフルで素敵な女性。
 
この付近はその昔数々のアーティストのスタジオがあったエリアで、隣にはA・ウォーホルが住んでいたとか。
娘が何気なく遊んでいた椅子も「それバスキアが使ってた椅子なのよ」と!
 
やがて夜には僕のギャラリーのオーナーも到着し、約一週のちょっとした合宿が始まったのでした。

 
今回の展覧会は、その名も「Bye Bye Kitty!!」
 
世界が認識している日本の現代アートといえばキティちゃんに代表される(?)
「かわいい」「オタク」「マンガ」等をテーマとしたような作品。
今回はそれ以降の世代、いわゆるそういった流れから脱却し、新しいスタイルで表現する日本人アーティスト
16人を集めた展示です。
 
今回の地震も影響してか、オープニングは沢山の人。
僕の作品3点「存在」「興亡史」「方舟」もいろんな人の視線を浴びていました。
画像

​その後は作家や関係者による打ち上げ、次の日はディナーパーティー。
 
僕はこのパーティーが苦手で、過去も何度か海外の展覧会に出席した折、英語に対する苦手意識から
パーティー中も貝の様に押し黙り、せっかく作家として招待されているのにほとんど話さないまま1人で
ムグムグと味のしない食事を食べている……といった経験がありました。
 
もうあんな惨めな思いはしたくない!
せめて自分の作品の事くらい、自分の言葉で喋りたい。
 
 
今回研修先にカナダを選んだ理由の一つにそれがあります。
 
 
こういう所に来ている作家さんは皆さん英語が出来るので最初のほうこそ気後れしましたが、
これが本番!という気持ちで深呼吸、エイ!とばかりに話し始めるとあとは思いのほかスムーズに。
といっても僕の拙い英語がスラスラ出て来るわけではなく、相手が一生懸命解ろうとしてくれる。
相手は作家の言葉が聞きたいわけで、どうにか理解しようと耳を傾けるし、
僕は僕で、どうにか自分のコンセプトを伝えたく、知ってる限りの言葉で努力する。
 
 
そのうちにだんだん壁が崩れ、気付けば会場のほとんどの人と話していました。
 
 
もちろんうまくは伝わっていないと思うけど、話したという事実が僕にとっては何より大きいわけで、
あっという間に楽しいパーティは終了。
気持ちのいい充実感に包まれて会場を後にしました。
 
「会話は文章とは違って、最終的には伝わればいい」
「とにかく間違いを恐れずに伝えようとする事」
 
よく言われる事だけど、本当にその通りですね。
 
     *  *  *
 
それから3日後の金曜日の朝。
シャワーから出て来た僕に向かって住人の方が深刻な顔で
「おめでとうございます! 大変な事になりましたね ! !」と。
 
連日連夜遅くまで原発の状況をネットとにらめっこしながら討論していた僕ら。
また新たに大事故が起こったと思い、同時にこんな状況でおめでとうございますって
いくらジョークでもそれは不謹慎ではないですかと少々ムッとしながら「なんですか?」と。
 
寝ていたオーナーも叩き起こし、その方が僕らに向かって新聞を拡げる。
 
 
「今朝のニューヨークタイムズです。いいですか?」
 
 
正直見たくない。
 
 
が次の瞬間僕の目に飛び込んで来たのは
新聞の半分にドーンと掲載された「存在」の写真 ! !
 
 
ええ~っっっ ! !
ウソ~っっっ ! !
ニューヨークタイムズに載った~っっっ ? !
 
 
あまり事態が呑み込めずにポカンとする僕と妻の横で、その方とオーナーは狂喜乱舞の大騒ぎ ! !
そのあまりの喜びように内心「そんなにすごい事なの?」と思いながらも
慌ただしく言われるままにオーナーと家を飛び出しスーパーまで新聞を買いにダッシュ ! !
 
 
お二人が言うには金曜日のアート欄で取り上げられる為に、ニューヨークのアーティスト達は
死に物狂いで頑張っていると。それぐらいニューヨークタイムズの影響力は大きいんだと。
それで3行でも記事になればそれはものすごい事だと。
それがここまで大きく取り上げられたのだからこれはあなた、とんでもない事になったのよ ! !
と。(*1)
 
 
ホントですか……
 
 
そういわれても、それくらいしか言葉が出て来ません。
勿論物凄い事だとは分かったけれど、この時の僕の感想は、
 
 
「この絵って凄いんだな~」
 
 
他人事 ! !
 
何でだろ。
 
パーティーでの頑張った英会話がニューヨークタイムズに載ったならそりゃあもう大喜びするだろうけど、
僕がっていうより絵が。でしょ?
でも描いたのは俺か。。
 
 
そんなもんなのかなぁ~ !?
 
 
でも何より、夕べまで沈みがちだったオーナーやみんなの顔が喜びに溢れているのを見てるうちに
実感が湧いてきて、とても嬉しくなりました ! !
画像

その後は3日間、ギャラリー巡りをしたり観光したり。
ニューヨークの刺激をたくさん貰い、いろんな人に会い、話し、考え、これ以上無いというくらいの
濃厚な一週間を終えて、ニューヨークを後にしたのでした。


*1   2011年3月18日ニューヨークタイムズ紙

コメントの受け付けは終了しました。

    Author

    池田 学(いけだ まなぶ)
    画家。1973年佐賀県多久市生まれ。98年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。2000年同大学院修士課程を修了。 2011年1月25日より1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。バンクーバーへは、奥さんと2歳の長女も同行。2012年3月に再渡航。2013年夏にはアメリカ・ウィスコンシン州マディソンに場所を移し、美術館で滞在制作を開始。

    『池田学画集1』 
    ミヅマアートギャラリーの作家紹介

    Archives

    8月 2013
    7月 2013
    6月 2013
    4月 2013
    3月 2013
    2月 2013
    1月 2013
    12月 2012
    10月 2012
    9月 2012
    8月 2012
    7月 2012
    6月 2012
    5月 2012
    4月 2012
    3月 2012
    2月 2012
    1月 2012
    12月 2011
    11月 2011
    10月 2011
    9月 2011
    8月 2011
    7月 2011
    6月 2011
    5月 2011
    4月 2011
    3月 2011

    Categories

    すべて
    池田学のバンクーバー日記 目次

    RSSフィード

Copyright © 羽鳥書店. All Rights Reserved.