緑豊かで美しい街、バンクーバー。 街路樹や公園も豊富で、行き交う人々の表情も和やか。 世界で一番住みたい街にも選ばれているこの都市には、もう一つの側面があります。 それが「Hastings Street」。 いわゆるスラムです。 といってもそんなに大きいものではないのですが、そこに足を踏み入れると、 その雰囲気の異質さにここが同じバンクーバーかと思う程のショックを覚えます。 バンクーバーは小さい都市。 特にダウンタウンの通りは碁盤の目のように整備され、それぞれは街の端から端を結んでいて、 車なら10分ほどの距離。 各通りには特徴があり、例えば観光客の多いロブソンストリート、ショッピングならグランビルストリート、 下町的な趣きのデイビーストリートなどなど。 その中でヘイスティングストリートは金融街の中心といったポジション。 両脇にはギラギラした無機質なビルやマンションがそびえ立ち、ある意味 バンクーバーの中枢ともいえる印象。 それが車で数分も走れば、景観はガラリと変わり今度はシャッターで物々しく覆われた店が 目立つように。 やがて道の両脇はたむろする人々や散らかるゴミ、緑もなくあきらかにデンジャラスな雰囲気が…… 建物は寂れて埃っぽく、路上に立つホームレスやクスリの売人、麻薬中毒者と思われる人々。 信号で止まれば目の前を歩く人々の表情や服装が、普段見る人達のそれとは全く違う事に 軽い恐怖すら覚え、気付けばハンドルを握る手にも力が入っているほど。 そんな通りが1キロも続くだろうか、やがて通りには健康的な雰囲気が見え始め、 緑も人もいつものバンクーバーに戻っていく。 まるで一瞬の嵐のよう。 貧富という側面が一つの通りの中にこんなにもあからさまに混在しているのも日本にはない光景で 驚いてしまいます。 そして不思議なのはじつにはっきりと住み分けができていること。 いわゆるヘイスティングエリアを1ブロック隣に行けばそこは普通の街角。 子供連れもいれば美味しいカフェもある。 僕の感覚では僅か1ブロックの距離なら次第に人が流れてきてやがて境界が曖昧になっても おかしくない気もするのだが…… はじめの頃はびくびくして歩いていたけれど、慣れてよく観察してみると、暴力や盗みなど、 他人に迷惑をかけたりする人はなく、特別こっちが関わらなければ普通にいられるという事が 分かってきました。 聞いた話では、そのエリアにはエリアなりのコミュニティーがしっかりあって、仲間意識が強く、 逆に人間らしい人も多いのだとか。また精神病患者の人達がある事情で行き場をなくし、 そのままここに放置されてしまっているというようなことも聞きました。 ドラッグや売春などを擁護するつもりはないけれど、そのエリアの持つ複雑な背景を聞くに及んで、 ただ悪人や中毒者の吹き溜まりという一言で片付けるのはちょっと表面的すぎるのかなという 思いがあるのもまた事実です。 コメントの受け付けは終了しました。
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Author池田 学(いけだ まなぶ) Archives
8月 2013
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