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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第29便 花屋さん一家と<5> ラブカの歯  2014/3/11up 

3/11/2014

 

 花屋の千秋さんの長男夫婦には2人の娘がいます。いまは小学3年生と小学1年生。
 3年生の子は、魚が大好き。さかなクンのようになるのが将来の夢です。2013年のクリスマスには、叔母の伶奈さんから深海魚の図鑑が贈られ、大喜びでした。
 
 14年1月の夕暮れ時。
 海上輸送用のコンテナでつくられた仮設の商店街は、まもなく閉店。私は、長男のおヨメさんの美智子さんと、2人の娘と、ストーブを囲みます。
 3年生に尋ねました。好きな魚を教えてください。
 「サメの中ではラブカ」
 ラブカのどんなところが好きですか。
 「ラブカの歯が好き」
 まあ、どんな歯をしているんですか。
 「こうなっているの」
 さらさらと描き上げました。深海にすむサメの仲間だそうです。
 おや、クリスマスツリーのようですが、これが1本の歯なのね。
 みなさんにもおわかりいただけますよう、左は、私の描いたラブカの口元。そして、右は、3年生が描いてくれた歯1本の拡大図。説明も書き添えてくれました。
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 もうひとつは、ミツクリザメの絵です。左右とも3年生が描いてくれました。こちらもすごい歯ですが、額も風変わりです。額の拡大図が左。
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​ ミツクリザメは何を食べるのですか。
 「キンメダイとか食べるの」。即答です。傍らの美智子さんが「キンメダイも深海魚なんですよ」と補ってくださり、「私も深海魚が好きなんです」。1年生も教えてくれます。「泳ぐのが嫌いな魚がいるの。それで海底を歩いているの」。3年生が続けます。「カエルアンコウ。尾びれが変化して歩くの」。海の中には不思議な世界が広がっていますねえ。
 そのひとときは、美智子さんにお願いして設けていただいた時間でした。
 3年生と1年生の笑顔に、私は、ほっと心温まり、家路に着きました。
 
 このブログの第7便にも書きましたが、いまも3年生の心の中には、震災の記憶があります。その記憶が鮮明によみがえった12年12月の津波警報の後、私がお店へやってきて、母や祖母と津波の話を始めたのです。3年生の凍りついた表情に私が気づいたのは、話し終えた後のことでした。それ以来、学校で、お店で、私が声をかけると、3年生のお顔から、すっと笑みが消えるようになりました。もう一度、一緒に笑顔になれる話をしたい、と願っていました。
 女川町で被災した男性から、こう聞かされたことがあります。「今が一番つらい」。大人でさえ、長年の経験をもってしても、つらくてたまらないのに、子どもでしたら、なおさらでしょう。大事な教えを、3年生から授かりました。

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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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