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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第46便 漁師さん親子と<6> 虹色のカメ   第4話 訓練

9/29/2017

 
 
 2013年6月。
 私は女川中の避難訓練の様子を見せてもらいました。
 1978年6月12日に宮城県沖地震があり、この再来に備え、毎年6月に訓練を行います。
 訓練は毎年、抜き打ちです。
 訓練日のみ、全校生徒と教職員たちへ伝えます。
 時間は秘密。校長、教頭、防災担当の先生だけが承知しています。
 
 1時間目。私は音楽室へ。2年生の授業を参観します。
 私の姿に生徒たちは「訓練は1時間目だ・・・・・・」。
 訓練の開始時刻を承知する私は、何も言わず、笑みを返すだけ。
 みんなピアノに合わせて歌います。歌えば心身ともにリラックス。雑談が始まります。
 音楽の恵先生は「静かに」と制し、クギを差します。
 「今日はいつ地震が起きるかわかりません。先生はみんなを置いて逃げます。あんだだぢは自分で自分を守らなくてはいけませんよ」
 これこそが抜き打ち訓練の成果です。
 教室も職員室も、朝から訓練の話題で持ち切りになります。
 
 1時間目終了。恵先生は「終わりまーす。音楽の時間にサイレン鳴んねかったなあ。さあ、3年生来っから、机の中を空にしてくださーい」。
 次に音楽室へやってきたのは智博君のクラスの3年生。
 彼らも私を見て口々に「訓練だ・・・・・・」。
 その2分後。
 校内放送です。
 「ただいま地震が発生しました」
 停電を想定し、その一言で放送は終わります。
 同時に廊下から2年生たちの叫び声が響きました。
 「うわあぁぁ」「早くしないと死んじゃう」「どうすんの」
 あれほど「今日は訓練」と言われていても本番は大慌て。抜き打ちの効果絶大です。
 休み時間中のため、拡声機を手にした先生たちが「避難を開始します、外に出なさい!」と呼びかけて回り、トイレの個室も確認していきます。
 恵先生は「逃げて逃げて」と生徒たちを廊下へ誘導し、「けがすっから、けがすっから」と注意喚起しながら先導します。3年生は口を真一文字に結んで外へ。
 
 玄関前に集合。校庭には出ません。校庭へ出るには体育館脇を通りますが、あの日は、体育館の窓ガラスが散乱して校庭へ出られなかったので。
 防災担当の敏郎先生が拡声機で次の指示を出します。
 「大津波警報が発令されました。ここは危険なので浄水場の坂まで行きます。1年生を先頭についてきなさい。はい、小走り、早く!」
 先頭の1年生たちは必死の表情。私は全速力の彼らを追い抜くことができません。
 
 数分後、学校上の山の坂道に全校生徒約200人がそろいます。
 しばし、生徒たちのおしゃべりが続きます。
 緊張を解きほぐすため、懸命におしゃべりしているかのよう。
 敏郎先生が生徒たちへ話し始めました。
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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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