朝6時すぎ、私は携帯電話の呼び出し音で目をさましました。受話器の向こうから、明るい声。 「恵子です。朝早くにごめんね」 えっ、あ、もう朝。あわてました。前夜、私は目覚まし時計をセットせず、早々に寝てしまったのです。 「メールの返事がなかったから、姉も心配していたの」 え……。前の晩、恵子さんの姉、礼子さんからのメールに気づかず、私は熟睡してしまい、朝のメールにも気づかず寝ていました。昨年12月のクリスマスの朝のことです。 クリスマスイブの夜、私は礼子さんと恵子さん姉妹を訪ねました。 81歳のお母さんが明るい声で「食べらいん(食べなさい)、食べらいん」と食卓に招いてくださいました。 昨年9月29日のことです。女川町の中心部で復興事業が本格的に始まるのを前に、町は着工式を行いました。式典では、大型トラック3台が更地にどっと土を盛り、立木の伐採も行われました。しめくくるのは獅子振りです。太鼓と笛の囃子に胸が高鳴ります。いよいよ町が再起するのです。 その後でした。帰り際に町職員が声をかけてくれました。 「その先、白い車が止まっている所が、うちだったんだ」 彼は草に覆われた自宅の跡地へ案内してくれました。 「ここに駐車場があって、ここに倉庫があって、ここに……」と語る彼の笑顔を見ながら、 そうだった、と私は思い至りました。これから町の景色は一変するのです。彼の自宅跡地には約10メートルの土が盛られます。 千秋さんのお店へ急ぎ、お願いしました。 千秋さん、これから盛り土が始まります。すでに以前の街の面影はないのですが、今のこっている跡地も消えてしまうのです。消える前に、お店の跡地で写真を撮らせていただけませんか。 二つ返事で引き受けていただきました。 |
Author小野智美(おの さとみ) Archives
3月 2019
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