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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第47便 漁師さん親子と<7> アは赤とんぼ   第2話  恥ずかしい話

7/26/2018

 
 ​2012年夏。私は初めて漁師さんの末っ子に会いました。
 仮設住宅団地の広場で開かれた夏祭りの最中でした。末っ子は3歳。
 ​金魚を大事に抱えるところへ「大丈夫?」と声をかけるのは10歳の姉。
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 ゆかたは、団地へ全国から届いた支援品です。新品でした。ゆきたけなどサイズを合わせてくれたのは団地の女性たち。団地の集会所で手工芸を楽しむ「キラキラ会」のメンバーです。姉のゆかたは「ちょっと腰上げしすぎた」と漏らしていましたが、姉は笑顔で「うれしいです」。和装には慣れています。母に連れられて日本舞踊を習っていましたから。
​ 団地は、第13便から綴ってきた床屋さん家族も暮らした野球場の仮設住宅です。全189戸。町内一のマンモス団地で、入居者は町全域から集まりました。
 町内の住宅再建は18年度末までかかる見通しでした。津波が届かなかった標高に宅地を造ることになり、山を切り開くのに時間を要します。それまでの年月を支えるのに奮闘したのが、団地の自治会役員たちでした。
 親睦を深めるため、団地の広場で夏祭りを催すことにしました。夜ごと役員会を開き、準備を進めます。金魚すくいの話し合いでは、こんなやりとりもありました。
 「水槽が要るね」「昔のたらいがあればすぐ出来るけど、津波で流されているから」「そうだな」「子ども用のプールがあればいい」「それさえ、ないから」
 自分がなくしたものを確認するだけでなく、皆も同じようになくしたことを確認します。
 役員会を終えるのは夜9時すぎ。役員の多くは年配者です。副会長の知代さんが「このバイタリティー。みんな若いですよ」とほめたたえると、皆、口々に「あとで寝込むんだ」と大笑い。役員たちも初対面同士。準備を通じて打ち解けていきます。
 話し合い中は皆の発言を促すのに徹し、ほとんど口出ししない会長の昭道さんが最後に言います。「来年さ結びつくように力を合わせましょう」
 本番直前に昭道さんも自ら、実家の山林で高さ10メートルを超す大きな竹を切って運び込みました。「キラキラ会」の女性たちが飾り付けます。
 夏祭り本番、道具一式は金魚店で借りることができました。役員たちも大満足です。
 「子どもたち結構、喜んだね」「んださあ」「来年は大きい吹き流しをつくるっかなあ」「せっかくここにいるのなら、楽しいことをいっぱいしましょう」

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第47便 漁師さん親子と<7> アは赤とんぼ   第1話  ドナルドさん

7/8/2018

 
 ​2018年春、漁師さんの長男は大学合格を果たし、今は仙台市で暮らしています。
 浪人中は予備校の寮に入った友人もいましたが、「予備校は自分には合わないから」と自宅にとどまりました。高校卒業後すぐに運転免許を取得。妹2人の送迎を買って出ます。父は大助かり。妹たちにも好評でした。兄なら真っ白なミニバンで来てくれます。多忙な父は軽トラック。軽トラは浜仕事の必需品とわかっていても、浜育ちでない友だちの手前、高校生の妹はちょっと恥ずかしかったようです。
 
 時計の針を少し巻き戻し、17年夏の話をしましょう。
 17年8月11日、私は女川町南端の浜、小屋取(こやとり)を訪ねました。
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 右前方の建物群は東北電力の女川原子力発電所です。原子炉は3基。いずれも停止中です。
 東京電力の福島第一原発のような過酷事故は免れましたが、あの日、女川原発も被災しました。火災が起き、消火に8時間かかり、津波は海水の取り込み口から流れ込み、排水には5日かかりました。以後、東北地方は原発を使わずに過ごしています。
 
 浜には土を盛って高台が造られました。
 防波堤から振り返った浜の姿を、高台が出来る前の11年10月と比べてみます。
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 浜辺の10世帯が流されました。そのうち4世帯が高台へ戻ってきたそうです。
 
 高台の道路脇に女川中学校第1回卒業生の石碑が建てられました。
 震災の教訓を刻んだ碑です。
 17年8月11日は除幕式があり、卒業生8人が集まりました。
 区長さんたち浜の人々も出席します。中学時代の恩師、一彦先生もいます。
 拡声機を手に司会を務めるのは脩君。海上保安庁職員になりました。背筋を伸ばした立ち姿に日々の鍛錬がうかがえます。
 開会のあいさつを述べる由季ちゃんは、宮城県職員になりました。落ち着いた物腰にこの間の社会人経験がにじみでます。
 脩君は碑文朗読を元哉君へ託しました。大学で念願のバンドのサークルに入った元哉君は、ギタリストらしいボブカットです。
 元哉君の背後で卒業生たちは遠い目になります。
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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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