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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第31便 花屋さん一家と<7> ぴいちゃん

5/15/2014

 
ここ女川町へ来て、初めて知った言葉に「ぴいちゃん」があります。
 「どなたのことですか」と尋ねると、「おっぴさんのこと」と言われました。
 「ぴいじいちゃん」「ぴいばあちゃん」と呼ぶこともあります。
 曽祖父母のことです。
 ひ孫たちは親しみをこめて「ぴいちゃん」と呼びます。
 敬意をこめて呼ぶときは「おっぴさん」です。
 
 その言葉は、東北の被災地の底力を象徴している。私はそう思います。
 この3年間、町の中学生たちは、「千年後の命を守るために」を合言葉に、津波対策づくりに取り組んできました。震災の記録を残すため、最初の語り部になった生徒は、今も行方がわからない曽祖父母への思いを打ち明けました。同級生は涙ぐんで耳傾けました。子どもたちにとって「ぴいちゃん」は掛け替えのない存在。家族の絆を表す言葉です。
 
 千秋さんの7歳の孫娘は、3歳の思い出を、今も口にします。
 「ホヤのぴいちゃん、お祭りのとき、綿あめを買ってくれた」
 「ホヤのぴいちゃん」は、千秋さんの父のことです。祖父方の曽祖父、「畑のぴいちゃん」と区別して呼んでいました。
 ホヤのぴいちゃんは、船乗りでした。震災時、船を沖へ出すために出港したきり、帰ってきませんでした。綿あめを買ってくれたのは、夏、女川港そばで開かれた「女川みなと祭り」のときでした。震災以降、祭りは休止しています。

 女川港の周囲には、いま、更地が広がっています。将来の津波に備え、土を盛る工事が続いています。震災前は、軒を連ねるように商店が並んでいました。
 千秋さんの10歳の孫娘は、4歳のときに初めてのおつかいに出かけます。母に書いてもらったメモを手に、パン屋へ。それからは毎日、ひとりで買い物に行くようになりました。保育園から帰って来ると、100円玉をにぎりしめ、国道沿いの駄菓子屋へ。
 1本10円のきなこ棒を買います。口にくわえ、引き抜いたつまようじの先に赤い食紅がついていれば、「アタリ」です。もう1本もらえます。これも忘れられない思い出です。その駄菓子屋も、震災で姿を消しました。
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 2014年1月、石巻市の駄菓子屋で、私は、千秋さんの孫娘のために10本注文しました。ついでに私も1本。
 素朴な甘さ。何本でも食べられそう。引き抜くと、おっ、赤。これは楽しい。「もう1本どうぞ」と駄菓子屋さん。アタリに年齢制限はないのですね、恐縮です。
 そこは、石巻市の幼稚園児も通っていた駄菓子屋です。お目当ては、やはり、きなこ棒。震災時、園児は、高台から海側へ下りる幼稚園バスに乗せられ、津波にのまれました。千秋さんの10歳の孫娘と同い年でした。
 13年の晩秋、園児の母が見せてくれた日記には、こう書かれていました。「クリスマスに何を買ってあげたらいいのか、わからない。学校で流行っているものが欲しいと言ったかもしれない。それすら、わからない……」
きなこ棒は、孫娘たちに好評でした。「2本、当たったよ」と7歳の子は報告してくれました。園児の母にも、その話を伝え、こう言い添えました。
 ですからね、きっと今も、これからも、きなこ棒は大好きですよ。

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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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