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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第34便 美智子さん姉妹<6> ライト

7/28/2014

 

​ 2014年2月9日の朝7時。女川町へ行くため、東松島市の自宅を出ました。通常は1時間かからずに着きますが、大雪の翌朝でしたので、2時間を見込んだ出発です。
 1時間後。マイカーは自宅からわずか300メートル前進したのみ。私は額の汗をぬぐいながら、前方のトラックのタイヤ下の雪かきに参加していました。
 この日、隣接の石巻市では最大積雪量38センチを観測しました。1923年に43センチを観測して以来、91年ぶりの大雪でした。
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 除雪が追いつかず、市道は大渋滞。引き返すことにしました。
 おや。自宅アパートの駐車場で、車のヘッドライトのカバーを雑巾で拭いている人がいます。
 もしや。マイカーのカバーを見ましたら、泥まみれです。これでは夜道が暗くて当然です。浜辺に降る雪は、商店街や住宅街の跡地でぬかるみと化し、車はすぐ泥だらけになります。服につくと、乾いても、はたき落とせず、まるでペンキのようです。
 
 今もあちこちの浜で夏草が生い茂った広い更地を目にしますが、女川町中心部では地盤を高くするために大量の土を盛る工事が始まり、立ち入り禁止となった跡地もあります。
 2014年5月の夕暮れに撮った写真のこの跡地も、今度の冬には立ち入り禁止となる予定です。そこには、美智子さんの職場、七十七銀行女川支店がありました。薄暮の中、淡い光がともります。妹の礼子さんの心づくしのライトアップです。
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 奥に堀切山が見えます。山腹には病院があり、山肌の二列に並んだ明かりは200段の階段を照らします。階段の一番上に熊野神社がありましたが、今は立ち入り禁止です。ご神体は、約1キロ先の高台の仮殿へ移されました。
 町は、病院を残し、それより上の山を削って、津波で家を失った人々に分譲する宅地や、小中学校の敷地を造ります。4年先の18年秋までに造成を終える予定です。
 
 支店の建物が撤去された12年6月。
 美智子さんの2人の妹は、このブログでこれまでにご紹介した健太さんの家族、祐子さんの家族と一緒に、跡地で花壇をこしらえました。
 礼子さんは立て看板も作りました。支店では12人の銀行員たちが犠牲になりました。看板には祈りをこめています。これを目印に、今も行方がわからない8人が帰って来ますように。季節がめぐるたび、みんなで花を植え替えます。礼子さんは言います。
 「枯れた花をそのままにしてはだめ。汚れた着物をきせておくことになるから」
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 傷んだ看板の修理も、礼子さんが担います。大手建設会社の社員ですから、パソコンを使いこなし、大工仕事も慣れたもの。こうしたい、ああしたい、というみんなの願いを、「やれば出来る子って呼んでね」と笑いながら、すべて引き受けます。
 
 土を盛る工事を控え、支店跡地での最後のクリスマスを迎えた13年12月。
 絵美さんの両親が、ツリーとピンク色の飾りを用意しました。
 絵美さんは、今も行方がわからない銀行員の1人です。26歳でした。
 美智子さんと一緒にカウンターで接客を担っていました。仕事の後、一緒に外食することもありました。年長の美智子さんがふるまいます。その後は、動く絵文字をあしらったお礼のメールが届きます。美智子さんは「かわいいメールでしょ」と妹2人へ転送してきます。「きちんとしたかわいいお嬢さんなんだ」。2人は感心していました。
 被災の後、妹たちは知りました。
 絵美さんが大事に育てられた一人娘であり、唯一の孫娘だったこと。
 快活な青年が婿養子に来てくれた直後で幸せが目の前にあったこと。
 妹たちは、絵美さんが好きなピンク色の飾りをツリーにつけました。
 
 絵美さんの両親は、クリスマスツリーにイルミネーションも望みました。
 「発電機を置けないかな」
 絵美さんのお父さんが提案しました。発電機がどんなものかは承知していません。
 仕事柄、発電機を熟知する礼子さんは、即座に却下しました。
 「ガソリンを使うでしょ。無人の場所には置けないよ」
 礼子さんは、代わりに、太陽光発電の装置を探し出しました。
 クリスマスが過ぎても、ツリーはそのまま置くことにしました。
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 太陽光発電は大雪にも耐え、動きつづけました。立ち入り禁止になる日まで、黄色や赤、青、紫の色とりどりの光が、星空にむかって、輝きつづけるでしょう。

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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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