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​​東日本大震災(2011年3月11日)の震源地に最も近かった宮城県の牡鹿(おしか)半島。その付け根に位置する女川町を中心に、半島一帯を取材してまわる記者の出会いの日々を綴ります。老親の帰りを待つ人がいます。幼子の帰りを待つ人がいます。ここに暮らす人々の思いに少しでも近づけますように。──小野智美

第46便 漁師さん親子と<6> 虹色のカメ   第3話 希望

8/31/2017

 
 ​2013年11月、女川中3年生は国語の授業で魯迅の『故郷』を読みました。
 主人公の「私」は最後に、「希望」とは何かを述べます。「それは地上の道のようなものである。もともと地上には道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」
 次の国語の時間、生徒たちは「希望」を題に200字の作文を書きました。
 智博君はどんな作文を書いたのでしょう。

 その前に同級生4人の作文を紹介します。
 まず脩君から。
 「私にとって希望とは、絶対に捨ててはいけないものだと思います。なぜそのように考えたかというと、希望を捨てたら、そのとたんに、できることがなくなり、何もできなくなると思ったからです。
 希望を持っていれば、いろいろなことを達成できる可能性ができます。しかし、希望を捨ててしまったら、可能性がゼロになってしまい、何事も始まりません。なので、希望は絶対に捨ててはいけないと思います」
 国語の敏郎先生は脩君に「『希望を捨てる』とは言うけど、『希望を拾う』とは言わないよな。希望は拾うもんじゃないんだな」と話しかけます。

 次に七海ちゃん。
 「希望を失うとき、人はどれだけ傷つきどれだけの輝きを失うでしょう。心の中に一つでも希望があれば人は美しい輝きをはなち無限の可能性を感じることができます。
 私が希望を失ったとき周りは真っ暗で寒くて異常な寂しさがある部屋に閉じこめられた感じでした。しかし希望がめばえた瞬間、その部屋は温まり優しいぬくもりと愛で満たされました。私にとって希望とは美しく輝きながら生きていくうえで必要なものだと思います」
 先生は「希望は『芽生える』ものなんだな」。「言葉」を味わいます。
 竣哉君の作文。
 「希望と絶望は密接に関わっていると私は思う。
 『絶望の中でも希望を捨てず頑張ってきた』よく聞く言葉だ。でもこれは私の考えを裏付ける言葉でもある。幸せあるいは苦境に立っていない者は希望を必要とはしない。頼るものがたくさんあるからだ。一方、絶望している者たちこそ頼るものがないため最後に希望を探し求め、全てをかける。絶望がなくては希望も誕生しないのではないだろうか」
 原稿用紙には、書いては消し、消しては書いた跡が、残ります。
 先生は余白に感想を記します。「その通りですね。3.11以後さかんに耳にする『希望』はあの日の『絶望』がスタートなんだ」

 由季ちゃんです。
 「希望。私にとっての希望は『大人』です。子供はいつも大人の背中を見ています。背中を見て育ちます。
 どれだけどん底にいようと、どれだけまっ暗であろうと、私の道しるべになるのは大人です。今はただひたすら背中を追っています。追うことしかできません。けれどいつか、追いこしたとき、私がそうであったように、私がだれかにとっての希望になるでしょう。その時は堂々と背を向けたいと思います」
先生は大きく三重丸をつけ、「この作文を大人に読ませたいですね」と書き添えます。

 そして智博君の作文が、こちら。
 「僕は希望という言葉をきいて思うことは、自分のうちで飼っている、カメのことです。なんだかんだいってカメとは長いつきあいになっています。
 良いところは、あのかわいい目と、美しいこうら、そしてなんといっても、小さな手がとってもかわいいです。元気がないときやひまなときにカメを見ているととても、いい気分になります。僕にとってカメとは、希望を与えてくれる大事なそんざいです」
 あら、大急ぎで書き上げたのかしら。「と」も「て」も同じ形に見えますよ。
 先生は「智博らしい文章です」。「存在」の漢字だけ書き加えて返却しました。

 希望を与えてくれるカメ。
 一体どんなカメなのでしょう。
 見せて、とお願いして、14年4月、仮設住宅へ智博君を訪ねました。
 水槽をきれいに洗って待っていてくれました。
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​ 大人の手のひらほどの大きさです。

 名前は何というの?
 「カメ」と智博君。
 とも君が世話をしているの?
 にんまりと笑って「ノーコメント」。
 「パパだよ」。傍らで末っ子の柚葉ちゃんが教えてくれました。
 漁師さんが小学生の時に飼い始めたクサガメなのです。
 ということは。おお。40歳以上になるカメです。

 震災から約2カ月後の11年5月。
 漁師さんが3人の子を連れて尾浦の家の跡地へ行った時のことです。
 わずかに残っていた床板をはがすと、その下に、首も手足もしわしわにやせたカメがいました。生きていました――。

 奇跡のような「希望」に見入る私に、柚葉ちゃんが弾んだ声で「できたよ」。
 画用紙にクレヨンでカメを描いてくれました。
 甲羅は色とりどりのしま模様。
 赤、青、緑に黄色、ピンクにオレンジ、パープルもあり、虹のようですね。
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​ それをハサミで切り取り、保育園で習ったお面の作り方をまねて、輪にした紙を裏につけます。器用ですね。

 ひと仕事終えてくつろぐお兄ちゃんの頭の上へそっとのせて、仕上がりを確認します。
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​ 帰り際、柚葉ちゃんは、その虹色のカメを私にプレゼントしてくれました。

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    Author

    小野智美(おの さとみ)
    朝日新聞社員。1965年名古屋市生まれ。88年、早稲田大学第一文学部を卒業後、朝日新聞社に入社。静岡支局、長野支局、政治部、アエラ編集部などを経て、2005年に新潟総局、07年に佐渡支局。08年から東京本社。2011年9月から2014年8月まで仙台総局。宮城県女川町などを担当。現在、東京本社世論調査室員。


    ​*著書

    小野智美『50とよばれたトキ──飼育員たちとの日々』(羽鳥書店、2012年)
    小野智美編『女川一中生の句 あの日から』(羽鳥書店、2012年)
    『石巻だより』(合本)通巻1-12号(2016年)

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